ER心電図 Ⅰ:基本編の解説
判読ER心電図 1(基本編)―実際の症例で鍛える
※ ER心電図 基本編(初版第4刷2019年4月)の問題を解いています。
※ 実際の心電図と解説については書籍で確認してください。
問題25:心房期外収縮、左室肥大、盆状ST低下の心電図所見
背景:68歳、男性。うっ血性心不全の既往歴あり、呼吸困難。
リズム:不整。
心拍数:約 66/分。
軸:正軸(Ⅰ、aVF誘導ともにQRS波の振幅の和が陽性)。
移行帯:正常(V3~V4誘導)。
P波:正常(高さ、幅)。洞調律(Ⅰ、Ⅱ、aVF誘導で陽性P波)。2拍目、7拍目で異所性P波を認める(V1~V2誘導でP波の形状の違いがわかりやすい)。
QRS波:幅0.10秒程度(約2.5mm)。V1誘導のS波は約1.5mV、V5誘導のR波は約2.0mV(左室高電位)。
ST-T部分:Ⅰ、V5~V6誘導で盆状のST低下を認める。
これらの心電図所見より、「心房期外収縮、左室肥大、盆状ST低下」と考えられる。
期外収縮とは?
① 期外収縮とは「本来の収縮よりも早く出現する収縮」のこと。
② 洞結節以外の場所から刺激が発生する。
③ 刺激の発生部位によって「上室期外収縮」と「心室期外収縮」に分けられる。
④ 洞調律と期外収縮が交互に出現する場合=二段脈。
⑤ 洞調律2拍+期外収縮1拍=三段脈。
⑥ 洞調律3拍+期外収縮1拍=四段脈。
心房(上室)期外収縮とは?
① RR間隔が「先行するRR間隔よりも短縮」する。
②「先行する異所性P波」を認める。
③ 脚ブロックがない場合、QRS波は洞調律とほぼ同じ形を示す。
※ 心室が不応期を脱する前に興奮が達すると機能的脚ブロック(=変行伝導)を生じる。
※ 変行伝導を伴うQRS波は「右脚ブロック型」が大半を占める。
※ 本症例では、「先行する異所性P波」を認めており、心房期外収縮と判断できる。
高電位差(左室高電位)とは?
① V5、V6誘導のR波の高さ>25mm。
② Ⅰ、aVL誘導のR波の高さ>12mm。
③ SV1+RV5>35mm。
→ いずれかをみたす場合、高電位差(左室高電位)とする。
※ Ⅰ、aVL、V5-V6のR波は左室収縮を反映し、反対側のV1から見るとS波として見える。
※ 高電位差だけでは正常な若年男性でもみられ病的意義は乏しい。
左室肥大の心電図
①「左室肥大」の心電図の特徴。
→ 高電位差+QRS幅延長、ST-T変化、T波の変化。
② 高電位差=左室肥大ではない。
→ 高電位差に加えて、ST-TやQRS、T波の変化に注目することが重要。
③ 左軸偏位、左房負荷、陰性U波なども伴うことがある。
④ 左室の圧負荷:高血圧、大動脈弁狭窄症など。
⑤ 左室の容量負荷:僧帽弁逆流、心室中隔欠損症など。
→ 心電図ではいずれも「左室肥大」と表現される。
⑥ 左室肥大に伴うST-T変化はⅠ、aVL、V5-V6誘導で確認する。
⑦ 左室肥大のST-T変化には明文化された基準はない。
→ 判断する基準は多少甘めでもよい。
⑧ 安静時のST低下は心筋虚血でないことが多い。
※ 本症例では、左室高電位にST-T変化を伴っており、うっ血性心不全の病歴とあわせて左室肥大と判断される。
ST低下をきたす主な病態
① 虚血性心疾患
② 左室肥大、右室肥大(ストレイン型)
③ 頻脈
④ 低カリウム血症
⑤ 健常な中年女性
⑥ ジギタリス(盆状)
⑦ 脚ブロック、WPW症候群に伴う二次的変化
⑧ 交感神経緊張
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