ER心電図 Ⅰ:基本編の解説
判読ER心電図 1(基本編)―実際の症例で鍛える
※ ER心電図 基本編(初版第4刷2019年4月)の問題を解いています。
※ 実際の心電図と解説については書籍で確認してください。
問題65:洞徐脈、左室肥大、陰性T波の心電図所見
背景:34歳、女性。pin-point瞳孔、微弱呼吸を伴う意識障害。
リズム:やや不整(洞不整脈)。
心拍数:約 40/分。
軸:正軸(Ⅰ、aVF誘導ともにQRS波の振幅の和が陽性)。
移行帯:正常(V3~V4誘導)。
P波:正常(高さ、幅)。洞調律(Ⅰ、Ⅱ、aVF誘導で陽性P波)。
PR間隔:正常。0.12秒程度(2.5~3 mm程度)。
QRS波:幅0.10秒程度(約2.5mm)。V1誘導のS波は2.7mV程度、V5誘導のR波は4.2mV程度(左室高電位)。
ST-T部分:aVL、V1~V6誘導で陰性T波を認める。
これらの心電図所見より、「洞徐脈、左室肥大、陰性T波」と考えられる。
解説より、本症例は「ヘロイン(オピオイド)の過量内服」であった。
洞不全症候群とは?
① 原因:加齢や変性に伴う「洞結節の自動能低下、洞房伝導機能の低下」。
一次性:洞結節そのものに原因がある場合(加齢による変性など)。
二次性:洞結節以外に原因がある場合(スポーツ心臓、甲状腺機能低下症、薬剤性など)。
② Ⅰ型:洞徐脈。
③ Ⅱ型:洞停止、洞房ブロック。
④ Ⅲ型:徐脈頻脈症候群。
→ 上室性不整脈(心房細動・心房粗動など)が停止して洞調律に戻るときに「心停止」をきたす。
※本症例では、ヘロインの過量内服による「薬剤性洞徐脈」と考えられる。
洞不全症候群の心電図の見分け方(基本)
① 洞徐脈。
→ P波とQRS波が1:1の関係。
② 洞停止。
→ 延長したPP間隔が正常なPP間隔の整数倍にならない。
③ 洞房ブロック。
→ 延長したPP間隔が正常なPP間隔の「ほぼ整数倍」になる。
④ 徐脈頻脈症候群。
→ 頻拍停止後に心停止。
※本症例では、①と考えられる。
高電位差(左室高電位)とは?
① V5、V6誘導のR波の高さ>25mm。
② Ⅰ、aVL誘導のR波の高さ>12mm。
③ SV1+RV5>35mm。
→ いずれかをみたす場合、高電位差(左室高電位)とする。
※ Ⅰ、aVL、V5-V6のR波は左室収縮を反映し、反対側のV1から見るとS波として見える。
※ 高電位差だけでは正常な若年男性でもみられ病的意義は乏しい。
左室肥大の心電図
①「左室肥大」の心電図の特徴。
→ 高電位差+QRS幅延長、ST-T変化、T波の変化。
② 高電位差=左室肥大ではない。
→ 高電位差に加えて、ST-TやQRS、T波の変化に注目することが重要。
③ 左軸偏位、左房負荷、陰性U波なども伴うことがある。
④ 左室の圧負荷:高血圧、大動脈弁狭窄症など。
⑤ 左室の容量負荷:僧帽弁逆流、心室中隔欠損症など。
→ 心電図ではいずれも「左室肥大」と表現される。
⑥ 左室肥大に伴うST-T変化はⅠ、aVL、V5-V6誘導で確認する。
⑦ 左室肥大のST-T変化には明文化された基準はない。
→ 判断する基準は多少甘めでもよい。
⑧ 安静時のST低下は心筋虚血でないことが多い。
※本症例では、解説に「ヘロインの拮抗後に陰性T波が改善した」とあり、左室高電位はあるが左室肥大とは確定しにくい。
正常なT波の向き(基本)
①Ⅰ、Ⅱ、aVF、V4~V6誘導:陽性T波 → 正常。
② aVR誘導:陰性T波 → 正常。
③ 他:特になし。
※V1~V3誘導では「陰性T波でも正常」の場合がある。
※Ⅲ、aVL誘導の「単独の陰性T波」は異常としない。
※ 本症例では、aVL、V1~V6誘導で陰性T波を認めており、「前側壁の虚血」が示唆される。
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