ER心電図 Ⅰ:基本編の解説
判読ER心電図 1(基本編)―実際の症例で鍛える
※ ER心電図 基本編(初版第4刷2019年4月)の問題を解いています。
※ 実際の心電図と解説については書籍で確認してください。
問題86:急性下後壁梗塞、両房拡大の心電図所見
背景:70歳、男性。呼吸困難、全身倦怠感。
リズム:整。
心拍数:約 92/分。
軸:正軸(Ⅰ、aVF誘導ともにQRS波の振幅の和が陽性)。
移行帯:反時計方向回転(V1~V2誘導)。
P波:洞調律(Ⅰ、Ⅱ、aVF誘導で陽性P波)。Ⅱ誘導で幅広く高いP波、V1誘導で陰性P波を認める(両房拡大)。
PR間隔:0.16秒程度(4mm程度)。
QRS波:幅0.10秒程度(約2,5mm)。Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導で異常Q波を認める。V2誘導で高いR波を認める(1mV以上)。
ST-T部分:Ⅱ、Ⅲ、aVF誘導でST上昇を認める。Ⅰ、aVL、V2~V6誘導でST低下を認める。
これらの心電図所見より、「急性下後壁梗塞、両房拡大」と考えられる。
心筋梗塞の部位診断
① 広範囲前壁梗塞:Ⅰ、aVL、V1~V6。
② 前壁中隔梗塞:V1~V4。
③ 前壁梗塞:V2~V4。
④ 下壁梗塞:Ⅱ、Ⅲ、aVF。
⑤ 側壁梗塞:(Ⅰ、aVL)、V5~V6。
⑥ 高位側壁梗塞:Ⅰ、aVL。
急性下壁梗塞とは?
① ほとんどが「右冠動脈」の閉塞により生じる(左回旋枝の場合もある)。
② 下壁梗塞は「側壁梗塞」や「後壁梗塞」を合併することがある。
③「房室ブロック」を合併すると徐脈となる。
④ 右室梗塞(右冠動脈近位部閉塞)を合併すると重症となる。
⑤ 下壁梗塞+V1誘導単独のST上昇。
→ 右室梗塞の合併を疑う。
⑥ 下壁梗塞+V1~V2誘導のR波増高+V2-V4誘導でST低下。
→ 後壁梗塞の合併を疑う。
⑦ 下壁梗塞では「右側胸部誘導」を記録すると良い。
→ V4Rで1mm以上のST上昇=右室梗塞。
※本症例では、V2誘導の高いR波から後壁梗塞の合併が疑われる。
P波の基本
① P波とは「心房の興奮」を反映したもの。
② P波の「初め1/3は右房」、「後半1/3は左房」を表す。
③ 右房は心臓の最も右側にある。
④ 左房は心臓の最も後方にある。
→「洞調律」の場合、心房の興奮方向は「常に左下方向」となる。
→ 「洞調律」の場合、P波は「常にⅠ、Ⅱ、aVFで陽性」となる。
⑤ P波は「右房と左房の興奮が合成」されている。
⑥ 右房拡大(右房負荷)では「高さ」は大きくなるが幅は広がらない。
→ P波の高さ ≧0.25mV(Ⅱ誘導)=右房負荷。
⑦ 左房拡大(左房負荷)では「幅」が広がる。
→ P波の幅 ≧0.10秒(Ⅱ誘導)=左房負荷。
※心電図の小さな1コマ(1mm)=0.1mV、0.04秒。
左房負荷(左房拡大)
①「P波の後半成分」は「左房の収縮」を反映している。
② 左房が容量負荷 or 圧負荷を受けると「P波の幅」が広くなる。
③ P波の幅が成人では0.12秒以上、小児では0.1秒以上の場合。
→ 左房負荷(左房拡大)を疑う。
④ 左房負荷は「僧帽弁疾患」に合併することが多い。
⑤ 原因:僧帽弁狭窄、僧帽弁閉鎖不全症、拘束型心筋症など。
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心電図のみかた、考えかた 応用編
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